第9回世界大会特集
松岡師範代による大会観戦記
大会を通じて池本、徳田両選手のセコンドに付かれた松岡師範代に観戦記を書いて頂きました。全日本トップ選手の視点から考察したレポートは大会ハイライトを端的に表し、臨場感溢れるものとなっています。そして4年後を見据えた時、日本選手はどうあるべきか?との自問に独自の回答も提示してくれています。松岡師範代、ご協力ありがとうございました。

東灘・元町道場分支部長・師範代をさせて頂いてます松岡朋彦です。この度は、11月16日〜18日、東京体育館で開催された「第9回全世界空手道選手権大会」の観戦記を書かせて頂くこととなりました。中村道場より出場した徳田忠邦・池本理の両選手の戦いぶりを中心に、3日間観戦して感じた事を綴っていきたいと思います。
大会初日
初日は一回戦のみが行われました。基本的に、初日には実力差のある組み合わせが組まれていましたので、比較的技あり・一本勝ちも多く、そういう面での面白さを感じる試合が多く見られました。
中村道場の二人のうち、先に出場の徳田選手。「今までのどの大会よりも充実した稽古が出来た」というその言葉に期待感が持てました。
相手はスペインのヘクトール・セルデナ選手。体格は徳田選手と同程度の大型選手です。そんなに実績があるという選手ではありませんので、ここはサクッと勝ちたかったのですが、まさかの苦戦。徳田選手の突きや右の下段回し蹴りが決まっているのですが旗が上がりません。延長戦に入り、少し差を付けて判定勝ちを収めるのですが、徳田選手の表情は固いままでした。
池本選手の一回戦の相手は、小柄な中国のジンレイ・ヘ選手。試合前はかなり緊張した様子の池本選手でしたが、試合が始まると池本選手の攻撃、特に左の下段が有効に決まります。中盤以降には前蹴りも効果的に使い、全く危なげなく本戦4−0で勝利を収めました。しかし、中国の選手も、オーソドックスな組手でしたが、最後まで粘り強さを見せました。
日本選手団は、弓場選手の欠場、田ヶ原正文選手の敗退の他は、皆無事二回戦へと駒を進めました。
熾烈な三回戦
大会二日目。この日は二・三回戦が行われます。強豪同士が最初に当たる三回戦は、特に熾烈な戦いになると思われました。
徳田選手の二回戦は、イランのファルザッド・フォローザン選手。この選手は、8年前の第7回世界大会では四回戦まで進出し、優勝したフランシスコ・フィリォ選手と好勝負を繰り広げた強豪です。前日の段階では会場に来ていませんでしたので、欠場かと思っていたのですが、飛行機が遅れていただけだそうで、徳田選手も改めて気を引き締め直していました。
試合は、いつもどうり徳田選手の突き・右下段・左中段が決まるのですが、フォローザン選手は打たれ強く全く怯みません。終盤に、体で押し込むような形でペースを握り本戦で勝利しますが、細かい攻撃が有効でないように思えるのか、会場の外国人の観客から大ブーイングが鳴らされました。
池本選手の二回戦。相手はアメリカのマレク・コソウスキー選手。192センチ102キロの巨漢で、アメリカズカップの大会では、あのエヴェルトン・テイシェイラ選手と延長を戦っているという、かなりの強豪です。事前の情報で、上段膝蹴りとカカト落としが得意だという情報を得ていましたので、池本選手は試合前のウォーミングアップで、蹴りに対する防御と、相手と打ち合わずに足を使って離れる、またはくっつくというメニューを入念に繰り返していました。
試合では、池本選手のステップが機能するも、相手の攻撃をもらうと体が吹き飛びます。本戦はお互い有効打が無く引き分け。一発、上段膝蹴りを喰らってしまい、グラッとして危ない場面もありましたが、相手の力強い攻撃をかわしながら池本選手もコツコツ突きを返します。終盤、相手が疲れた顔をした所を攻め込もうとした矢先に試合終了。旗は2−0で相手側に上がってしまいましたが、主審が引き分けの判定を下し、体重判定で辛くも勝利しました。しかし、また海外勢からの大ブーイングが鳴らされました。
徳田選手の三回戦は、ロシアのセルゲイ・ウヴィツキー選手。試合前に「力を抜く」「膠着状態になったら、少し回るように」
とのアドバイスを飛ばしてくれとの要望がありました。
試合中は、それらのアドバイスを中心に飛ばしました。力まず、力を抜いた状態からの突きと下段が決まっているのですが、相手は下がらず膠着状態になってしまいます。延長で勝利するも、相手の押しの減点が無ければ判定負け、もしくは体重判定負けになっていたくらいの危ない勝負でした。
池本選手の三回戦は、日本でもお馴染みの、
ロシアのアンドレイ・ステピン選手。ステピン選手は、今大会物凄い勢いで勝ちあがってきており、前の二回戦では、池本選手の目の前で、上段回し蹴りによる豪快な一本勝ちを決めています。この試合前に、本部席の中村師範に呼ばれたのですが、「池本がさっきみたいな戦い方をしていたら、絶対ステピンに殺されるぞ」と中村師範ですら恐れるほどの勢いでした。
先程のコソウスキー選手との試合を見た青木英憲コーチから、「逃げるだけでなくて、思い切って中に入って攻撃しろ。中に入ってしまってからサイドに回れ」との指示があり、その指示通り、ステップで撹乱してから思い切って中に入ってしまうという作戦を立てました。
試合が始まると、試合場を大きく使った池本選手のステップが良く、ステピン選手が攻めあぐねている様子でしたが、池本選手もなかなか思い切って中に入ることが出来ません。ステピン選手の台風のような攻撃を避けながらの戦いは、大変な緊張感であったことでしょう。本戦はなんとか引き分け。延長も同じペースで試合は進み、このまま行けば引き分け、体重判定勝利かと思われた延長終盤、ステピン選手の後ろ蹴りをもらい、池本選手が転倒してしまいます。再開後、池本選手は挽回しようと攻撃に出ますが、転倒の印象が悪かったのか、3−0の判定で敗れてしまいました。
「あの後ろ蹴りさえ無ければ・・・」と悔やまれますが、ステピン戦後にも大きなダメージも無かったことが、その戦い方が大変効果的だった証拠と言えるでしょう。
結局、最終日には徳田選手一人になってしまいました。日本選手団も、ほぼ半分の11名となっていました。
日本惨敗
大会三日目、最終日です。開会式・試し割りの後の四回戦。相手はチェコのヤン・ソウクップ選手。第21回全日本ウエイト制重量級の優勝者です。強豪ですが、前日の試合でかなり足にダメージがあると思われましたので、ここは危なげなく勝てるであろうと本人も周りもそう思っていました。
試合が始まると、明らかに徳田選手の下段を嫌がっている様子でしたが、ヤン選手もペースを握らせないように技を返します。特にヤン選手の左の下段が物凄くシャープで破壊力がありました。
一進一退の攻防が続き、本戦残り30秒程となったところでヤン選手が怒涛のラッシュに出てきました。徳田選手もモーションの小さな下突きであわせていくのですが、大振りな胸への突きにどうしても崩されてしまいます。残り数秒は全く手が出なくなってしまい、そのまま試合終了。判定でヤン選手に旗が上がってしまいました。ヤン選手はこの勢いのまま、決勝まで勝ち進みました。
この四回戦では、11名いた日本選手団のうち、全日本チャンピオン内田義晃選手を含む9名が敗退。そして次の五回戦で田中健太郎選手が敗退し、なんとベスト8に日本人が村田達也選手一人という状況に陥りました。そして、孤軍奮闘していた村田選手も準々決勝で敗れてしまい、日本はまさに惨敗してしまったのです。
中村道場の二人の結果は、池本選手が三回戦進出、徳田選手がベスト32という結果でした。両選手とも、年齢からくる怪我・疲労感、モチベーションの低下など、色々とあると思いますが、ここで踏ん張ってまた四年後を目指して欲しいと思います。
大会総括
今大会日本は、ベスト8に日本人が一人という、歴史的敗退を喫してしまいました。個々の試合についての感想などはここでは書きませんが、以下三日間観戦しての感想を書きます。
@大会前は、日本・ブラジル・ロシアの三つ巴の戦いになると予想していましたが、加えてヨーロッパ(ブルガリア・スペイン・ポーランドなど)も強い。四年後はヨーロッパ勢も要注意です。
A今大会の下位回戦で消えた選手でも、全体的に物凄くレベルが上がっていました。弱国と思われていた韓国・東南アジア・中南米の選手なども、かなりの粘る強さを見せました。
B今大会は、微妙な判定・不可解な判定や、会場の外国人応援団のブーイングが多く見られました。
Cブラジル勢は、ブラジリアンキックに代表されるように足技のイメージがありましたが、今大会では突き、特に下突きに目を瞠るものがありました。
Dロシア勢はやはり強かったです。無名選手でも物凄く強い選手が沢山いましたし、何より一本勝ちが多いです。その中でも一番のKOシーンは、初日のレチ・クルバノフ選手の、後ろ回し蹴りでの一本勝ちでしょう。倒れた相手が数分間ピクリとも動かず、まさに会場中が凍りついたようなKOシーンでした。
E日本選手団は皆良い戦いを見せてくれました。全体の中で軽い部類に入る村田選手や福井裕樹選手の気迫のこもった試合などは、会場の日本人応援団が一体となって応援したと思いますが、外国人を恐れさせるような粘りや気迫のこもった戦いぶりを見せる選手があまり見られず、全体的に淡白に敗れてしまったという印象が残ったことが残念でした。それよりも日本で修行しているアルトゥール・ホヴァニシアン選手、日本で修行経験のあるレチ・クルバノフ選手、ダルメン・サドヴォカソフ選手などの方が、殺気のこもった技を出していたのは皮肉な事です。
4年後を見据えて
今大会、日本は大敗してしまったわけですが、今までの日本の試合の判定基準(ダメージよりも手数や印象を重視する)・その判定基準に沿った日本人の戦い方(ラスト数秒のラッシュ、手数を出しているだけで威力の無い攻撃)、などといったものが、外国人選手によってまさに吹き飛ばされたといって良いでしょう。「試合の勝ち方」を追うのではなく、「強さ」を体言するといった意識を選手・指導者が持たないことには、海外との差が開くばかりでなく、大山総裁の言う「地上最強のカラテ」のイメージから乖離していってしまうのではないかと思います。
また、代表選手の選考や、試合・合宿のスケジュール、選手への待遇面などについても一考する必要があるのではないでしょうか?そういう意味では、今大会の結果は、日本の考えを変える契機になるようなものであると思います。
そして、四年後の第10回世界大会では、見事王座を奪回出来ることを念願しています。
色々と書いてきましたが、今大会を観戦して、改めて「極真空手は素晴らしい!」と思いました。このような素晴らしい舞台を沢山の人に観てもらいたいですし、また私自身も早くこの舞台で戦いたいと実感しました。四年後へのスタートはもう切られました。四年後の王座奪回に向けて、気を引き締め直して稽古していきたいと思います。
>>大会結果
>>極真世界大会とは?
>>日本選手団への期待と展望

過去の入賞者リスト、及び第9回世界大会に関する詳細は東京本部ホームページに掲載されております。